もしも
「主人公が記憶喪失になったまま治らずに物語が終わってしまう韓ドラ」
があったら
・・・って、ちょっと想像しただけでも
すごくモヤモヤした気分になりませんか。
指揮の伊藤篤司です。
とつぜん変な例え話を出しましたが、
きょうは“コード進行”と“フレーズ感”のおはなしをします。
みなさんよくご存知の「崖の上のポニョ」主題歌
演奏①> ponyo_1.mp3
コードはこのように進行します。
①ニーギニギ ( F → C7 )
②ブーンブン ( C7 → F )
③おててはいいな ( F → B♭ )
④つないじゃお ( C7 → F )
コード「 F 」がもっとも多くて、たった4小節の間に4回も登場しています。
また、フレーズの最初と最後も「 F 」です。
この曲は「 F 」で始まり、「 F 」で終わっています。
調号(左はじの「シ」の位置に♭がついていること)からもわかりますが、
この曲のキーは「Fメジャー」。ヘ長調です。
「 ファ=F の音に重力を感じる、明るい調性」という意味になります。
わたしはここで“重力”という表現を使いましたが、
ちょうどボールを空高く投げると地面に落ちてくるように
この曲は必ず、絶対に、何があっても
「F」に帰ってくるようになっています。
つぎの演奏を聴いてください。
演奏②> ponyo_2.mp3
どうですか。
③おててはいいな ・・・・・・・・・
で、曲が止まってしまうと、
まさに空高く投げたボールが宙に浮いたまま落ちてこないような
とても変な、モヤモヤした気分になりませんか?
「一体、おててのどんなところが、どういいんだ!!??」
という歌詞への疑問もいっそう増すばかりです。
そして、
④つないじゃお
このメロディーが登場すると、やっと落ち着いた気分になります。
そうそう。忘れるところでしたが、冒頭にあった変な問いかけもここで解決します。
韓ドラ主人公の記憶も戻って「やれやれ」といったところです。
この、「落ち着いた」という気分を、
“音學”では「緊張がとけて音楽が弛緩する」とか「音楽に終止感が得られる」と呼んだりもします。
コード進行法の用語では「トニック」と呼ばれています。
そして、
③「おててはいいな」・・・の「いいな」。特にここがもっともエネルギーが使われている部分のようです。
メロディーも、まるで階段を駆け上がるように「シドレ」と勢い良く登って行きます。
ここが“フレーズの頂点”と呼ばれる部分です。
(コードの機能とメロディーの運びが見事に連動していますね!)
なんだか、理科の授業で習った「運動エネルギー」と「位置エネルギー」に
考え方が似ている気がわたしはします。
“頂点”に向かうときは「筋力」をうんと使うけど、
“地面に落ちるとき”は「重力」に身を任せるだけ
です。
そんな音楽のメカニズムに注目して親しむのも、
また一興かな、と思います。
音楽はもっともっと面白い!
さいごまで読んでくださり、ありがとうございました!